大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)644号 判決 1973年4月26日

控訴人

旧商号吉秀株式会社

ベニス株式会社

右代表者

吉田治昌

右訴訟代理人

中垣内映子

被控訴人

株式会社コンソルシオム・ド・ヴアント・エンテルナショナル

「コヴェンテール」

右代表者

リュシアン・ダンプロ

右訴訟代理人

斎藤直一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

当事者双方の証拠の提出、援用および認否の関係は、次のとおりである。<略>

理由

一、当裁判所は、被控訴人の本訴請求を原審の認容した限度において正当と認めるものであつて、この点に関する当裁判所の事実認定およびこれに伴う判断は、次のとおり付加、補正するほか、原判決がその理由一ないし三(原判決一四枚目―記録七一丁―表二行目から原判決三三枚目―記録九〇丁―裏八行目まで)に説示したところと同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決一五枚目―記録七二丁―裏七行目の「甲第一〇号証」とあるのを、「甲第五号証の一、二、第一〇号証、乙第一、第二号証」と改め、同裏一〇行目の「同安井孝之」の次に「同長嶋善郎」を加え、同裏一一行目の「右各証言」とあるのを、「右本松、三井各証言」と改める。

(二)、原判決一六枚目―記録七三丁―表四行目から原判決一七枚目―記録七四丁―裏九行目まで(原判決理由一の(二)の(1)および(2))を、次のとおり改める。

(1)、訴外株式会社大東ポリマ(代表者脇本某)は、かねて貿易商社の依頼により、大日本文具が商標権を有するペンテル・サインペンの類似品を製造していたところ、同年一二月頃右貿易商社が倒産したため、訴外長嶋商店に対して右製品の販売を依頼し、長嶋商店は、これに応じてその頃被告に対し右製品の売込みを計るとともに、大東ポリマに対して引き続き右類似品を製造するよう依頼した。被告会社貿易部貿易課長三井広美は、長嶋商店代表者長嶋善郎の説明によつて、右商品が実は真正商品ではなく偽造商品であることを諒解していたが、これを海外に輸出して被告のため利益をあげようと図り、長嶋商店から右商品を買い入れることを約した。ついで、右三井は、昭和四一年一月一二日付書状をもつて原告に対し、右偽造商品とは異なる真正商品の見本を送付してペンテル・サインペンの売買を申し込んだ。そこで、原告は、送付された見本が真正の商品であることを確認したので、被告と売買取引をすることにきめ、同年二月上旬副社長のラストルジェ・ダニエルを東京に派遣した。ラストルジェは、在京中三井ら被告社員と売買価格などにつき種々交渉を遂げたうえ、同年同月五日真正商品を目的とした前示の本件売買契約を締結し、直ちにパリの原告に連絡して本件信用状の開設を指示した。

(2)、ところで、前記売買の交渉は、被告側の三井らと原告側のラストルジェとの間で進められて、前述のような合意に達したものであつたが、三井らから右売買の次第について報告を受け決裁を求められた被告会社代表者吉田治昌は、大日本文具の社長と懇意であつたことから、同社を裏切る結果となることをおそれ、また、真正商品でないものをいつわつて被告の名義で輸出して被告が取引の表面に出ることは業界での信用の面からも不利であると判断して、右偽造商品を取り扱うことに難色を示し、三井らに対し右契約を取り止めることを求めた。しかし、本件信用状は前述のように取消不能のものであつて、被告の側から右契約を解消すれば原告から違約金を徴収されるおそれもあつたため、被告としては、自己の名が表面に出るのを避けるため、信用状を他に譲渡して譲受人の名義で商品の船積みを行なうこととし、これによつて偽造商品の取扱いによる商標権侵害に基づいて生ずべき責任を免れようと考えたが、その頃、被告は前記大東ポリマに対する本件偽造品の製造資金の支払いに窮していた長嶋商店からその資金援助を求められており、また、被告としても原告への納品を確保する必要があつたので、信用状による金融の便宜を与える意味で長嶋商店に対して本件信用状を譲渡することとした。そこで、同年同月一〇日前記三井および被告会社貿易課員本松久佳、同土屋忠俊は東京都中央区銀座東急ホテルにおいて長嶋商店社員安井孝之を交えてラストルジェと話し合い、本件信用状を譲渡可能(transferable)にしたいと申し出て、その承諾を得た。

(三)、原判決二〇枚目―記録七七丁―表四、五行目の「しかるに、」とあるのを、「原審証人飯島壮次郎の証言および成立に争いのない甲第一三号証中の荷為替信用状に関する統一規則および慣例(一九六二年改訂のもの)の総則と定義C項の記載も、前記判断を裏付けるものであり、また、成立に争いのない甲第九号証によれば、被告は長嶋商店に対する本件信用状の譲渡後である昭和四一年三月一八日原告に対して本件偽造商品につき、これが大日本文具製の本物のペンテル・サインペン(original PENTEL.)であることを確認し、将来も同商標の本物(the original PENTEL with this mark)を送付することを保証する旨の通告をしていることが明らかであり、この事実は、被告が右信用状譲渡後も売主の地位を脱退したとは考えていなかつたことを物語るものである。そして、」と改める。

(四)、原判決二〇枚目―記録七七丁―裏末行の「ラストリジェ」とあるのを「ラストルジェ」と改める。

(五)、原判決二一枚目―記録七八丁―表八行目の「(被告会社の社員)」とあるのを「(一部)」と改め、同表九行目の「各証言、」の次に「被告代表者本人尋問の結果」を加え、同表一〇行目の「三月」とあるのを「四月」と改める。

(六)、原判決二二枚目―記録七九丁―表三行目の「一ないし四」とあるのを「一」と改める。

(七)、原判決二二枚目―記録七九丁―表五行目の「理由とはならない。」の次に、「当審証人高橋弘の証言によつても、右判断を覆えすに足りない。」を加える。

(八)、原判決二二枚目―記録七九丁―裏初行の「右証言部分は」から同三行目の「措信し難い」までを、「他方、前掲甲第五号証の一および前掲本松およびラストルジェ各証人の証言によれば、被告は、原告に対して、本件売買契約の申込をするにあたり、フランス国内の他の輸入業者には秘密にしてもらいたい旨の書面を送付しており、原告側としても、被告の右申入れを他の業者との競合を避け、いわば他の業者を出し抜くためのものと解していたものであつて、右売買が商標権を侵害することとなるがゆえに秘密とすることを要求されたものと考えていたわけではないことが認められるから、本件信用状譲渡申入れの際におけるラストルジェの前記発言も原告の悪意を推認させる証拠とすることはできない」と改める。

(九)、原判決二五枚目―記録八二丁―表二行目の「前掲甲第一四、」から同第三行目の「同第一七号証」までを、「前掲甲第一一、第一四、第一六号証、成立に争いのない甲第一五号証の二、同第一七号証」と改め、同表五行目の「甲第一五号証の一、二」とあるのを、「甲第一五号証の一」と改める。

(一〇)、原判決二六枚目―記録八三丁―表二行目の「同年四月」とあるのを、「同年五月一一日」と改める。

(一一)、原判決二六枚目―記録八三丁―表六行目の「その後」とあるのを、「右告訴に基づいて」と、同表八行目の「六月四日」とあるのを、「六月二〇日および同月三〇日」と、それぞれ改める。

(一二)、原判決二八枚目―記録八五丁―表六行目の「賠償請求権を有する」の次に「とともに不完全履行をされたために生じた損害の賠償請求権を有する」を加え、同裏一〇行目冒頭の「被告」とあるのを、「原告」と改める。

(一三)、原判決二九枚目―記録八六丁―裏初行の「なつたものといえる。」とあるのを、「なつたものであるといえるのみならず、前掲被告会社代表者本人尋問の結果によれば、被告は大日本文具との間でフランスに輸出した偽造商品のうちいまだ市販されていない分を廃棄することを約していることが認められる。」と改める。

(一四)、原判決三〇枚目―記録八七丁―裏一行目の「同証人によつてその成立が認められる」とあるのを「前掲」と、同裏五行目の「かつ、」から原判決三一枚目―記録八八丁―裏八行目の「明らかである。」までを、「右のような経費を負担してはじめて真正商品を取得しえた筈であるから、前説示のように、契約に基づき不完全履行を理由として履行すなわち真正商品の給付に代わるべき填補賠償請求権を行使するについて、右出費はその対象となるものではない。」とそれぞれ改める。

(一五)、原判決三二枚目―記録八九丁―表一一行目の「兼任している」の次に「現に前掲甲第五号証の一、二によれば、前認定の本件売買の端緒となつた被告の昭和四一年一月一二日付本件サインペンの売買の申込はビユレロール社代表者としてのダンプロ宛になされていることが認められる。)」を加え、同裏三行目の「設立に際しては」の次に「実質的にピユレロール社と同系で同社の出資者が被告に在職しているとの理由により」を加える。

(一六)、原判決三二枚目―記録八九丁―裏七行目の「同年九月頃には、」とあるのを削る。

(一七)、原判決三三枚目―記録九〇丁―表七行目の「取扱つて来た原告」とあるのを「取扱う原告」と、同表九、一〇行目の「当然熟知していた」とあるのを、「了知していたかもしくは少なくとも了知し得べかりしものであつた」と改める。

二、以上の次第であるから、被控訴人の本訴請求のうち、控訴人に対して債務不履行に基づく損害賠償として米貨一五、五二九ドル四三セントおよびこれに対する損害発生の後である昭和四二年二月一一日から支払いずみにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は、正当としてこれを認容しうるが、その余は失当であるから、これを棄却すべきであり、右と同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は、理由がないから、民訴法三八四条一項に従い、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(吉岡進 園部秀信 森綱郎)

<参考・原審判決理由抄>

(東京地裁昭和四二年(ワ)第八八四号、損害賠償請求事件、同四七年三月一一日民事第二三部判決)

(三) 信用状の譲渡について

さて、問題となるのは、本件売買契約が締締結された後に、本件信用状が被告より長嶋商店に譲渡されたことにより、売主たる地位が被告から譲受人である長嶋商店に移転し、被告が本件売買契約から生ずる一切の権利義務を免れるかどうかである。

思うに、信用状は、その性質上対価関係たる受益者(売主)と開設依頼人(買主)との間に売買契約に基づいて、開設されるものではあるが、開設された信用状に基づく当事者間(開設依頼人、開設銀行、通知銀行、受益者等)の法律関係は信用授受の特種の法律関係を構成し、いわゆる信用状の譲渡は、売主・買主・譲受人の三者間で特別の合意をしない限り、信用状の開設により受益者が開設銀行に対して取得した代金決済に関する特別の権利が、受益者から譲受人に承継されるにすぎず、これによつて、受益者は、売買契約における売主たる地位から脱退するものではない。したがつて、本件取引の場合のように、信用状の譲受人において債務の本旨にしたがわない不完全給付をした場合には、受益者は、あたかも履行補助者が不完全給付をした場合と同様に、売主としての責任が具体的に発生するものと解するのを相当とする。そしてこのことは、信用状の譲渡が一部につきなされた場合たると、本件のように全部譲渡がなされた場合たるとにより、その理を異にしない。しかるに、本件においては、原告・被告・長嶋商店間において、被告が売主たる地位から脱退する旨の合意がなされたことについては、なんらの証拠がないから、この点に関する被告の抗弁は採用できない。

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